ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.102012.02.20 UP DATE「2012年始動」

 クリスマスと新年を故郷で過ごし、この14日に日本に帰ってきました。とてもいい休暇になりました。
 これほど時間があると、普通のイタリア人なら泊まりがけでどこかに出かけるものですが、私は家族や古くからの友人たちとの会話や食事に多くの時間を割きました。サッカーに触れたのは長友佑都が出たインテル・ミラノとACミランのダービーを見に行ったのと、ヨルダンで行われた日本とシリアのロンドン五輪予選を観に行ったくらいでしょう。
 静かな時間を過ごせたおかげで日本代表について落ち着いて思いを巡らせることができました。思考の中心にあったのは、2014年のワールドカップ・ブラジル大会に向けてこの2012年をいかにうまくつなげていくか、ということでした。そのためにも今年6月にスタートするアジア最終予選をいい形で勝ち抜かなければなりません。

 といっても、路線に大きな変更はありません。就任以来、選手と一緒になって積み上げてきたことには自信を持っています。ただ、チームをさらに成長させるために戦術、人選の両面でさらに幅を広げる必要を感じました。
 昨年12月、マレーシアのクアラルンプールでAFC(アジアサッカー連盟)主催のテクニカルカンファレンスがありました。その場でアジアカップを制した日本代表があらゆる角度から分析・検証され、称賛されました。監督としてうれしいことでしたが、それは同時に日本代表のサッカーがアジア中のテクニカルスタッフの前で丸裸にされたということでもありました。最終予選で戦う国はどこも「日本対策」を十分に積んでくる。ならば、こちらもそれを上回るオプションを用意しなければならない。オプションとは「武器」と言い換えてもいいでしょう。相手の対策を上回る戦術の多様性と新しい選手の戦力化――ベーシックな部分を充実させつつ、この二つも同時に進めなければならないのです。

 24日のキリンチャレンジカップ・アイスランド戦と、29日のワールドカップアジア3次予選・ウズベキスタン戦はその最初の一歩になります。
 アイスランド戦については17日にメンバーを発表しました。初招集は5人で、GK林卓人(仙台)とFW金園英学(磐田)はチームで結果を出しているものの、20歳の磯村亮太(名古屋)、19歳の柴崎岳(鹿島)、18歳の久保裕也(京都)の選出は本人たちにとってもサプライズのようでした。
 若い3人の招集については代表の「貯蔵庫」ともいえるU-23のメンバーを今回は呼べなかったから、という面はあります。それに、代表に合流したからといって代表選手に「なった」わけではない。将来このチームに入ってくる可能性のある彼らに「出場機会は今回ないかもしれないが、いつも君たちのことを気にかけているし、リーグでのプレーに注目しているよ」というメッセージを直接伝えることが今回の主目的です。
 3人とも所属クラブでは宝物のような選手です。うまく成長してほしいと思います。彼らにあってベテランにないものは時間。彼らには時間を有効に使ってほしいですね。
 大久保嘉人(神戸)、石川直宏(FC東京)のようなベテランを今回呼んだのはチームにはバランスが大事だからです。フレッシュな選手がいれば経験豊富なベテランもいる。それをつなぐ中堅もいる。

 監督の中には大きな成果を残したメンバーをそのまま温存するタイプの人がいますが、良し悪しは別にして私はそういうコンサバティブなタイプでもありません。選手に安定を与えようとは思いません。「君にこのポジションは任せたよ」と保証するつもりもありません。過去の勝利は未来の勝利を約束しませんから。

 ウズベキスタン戦については勝って1位通過することしか頭にありません。率直に言ってウズベキスタンは強敵です。クアラルンプールでアブラモフ監督と話す時間があったのですが、彼は「出場停止や負傷者が出て、選手が多少入れ替わっても力は落ちなくなった」と話していました。五輪予選の方もグループBの首位を走っています。これはチームの底上げが進んでチーム全体が伸びている証拠でしょう。
 対する日本は国内組には試合勘、海外組には試合直前の帰国というコンディションに不安があります。すでに両チームとも最終予選進出は決まっているので必死に戦う必要はないという声もあるようですね。
 しかし、私は監督としてまったく違う立場を取ります。代表チームに時間を無駄にできる試合などありません。1試合1試合がチームとしての力を高めていくために用意されているのです。
 われわれはブラジルに向けて着実に進歩し続けなければならない立場にいます。成功は、成長を意識し続ける者だけに訪れるのです。われわれが生きている世界は成功を目指してやっと現状維持できるかどうかという厳しい世界です。「ま、これくらいはいいか」と妥協した時点で衰退は始まるのです。

 私はリーダーとして常に志を高く持っていたいと思っています。試合には必ず勝たないといけないと思っています。ウズベキスタン戦のコンディションに問題があるのは承知の上でそれでも試合になったら選手は持っているものを全部出さないといけない。代表は代表であるがゆえに、常にその名に恥じないパフォーマンスをしなければならない、そう思っています。

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