ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.112012.04.01 UP DATE「祝!五輪出場
 そしてW杯最終予選」

 3月14日、バーレーンとのロンドン五輪アジア最終予選に勝って、U-23(23歳以下)日本代表が5大会連続のオリンピック出場を決めました。東京・国立競技場で喜びを爆発させる関塚隆監督と選手、スタッフ、サポーターの姿を見ながら、私も非常に誇らしい気持ちになりました。この夏、ロンドンに行けるということは今、この時点でも成功といえることですし、将来に目を向けても素晴らしいことだからです。オリンピック世代が強固になるということは少なくとも向こう10年は、日本サッカーの足元を明るく照らしてくれることでしょう。

 サッカーは人生に似ているところがあります。古いもの、昔のやり方に固執しているだけでは十分に生きた、とは言い難い。常に新しい何かを求め、発見し、挑戦するという刺激がないとやがて衰退するものです。そういう意味では5大会連続でオリンピックに出場するというアンダーエージの成功は日本の育成組織が機能し、新陳代謝がうまくいっている一つの指標のように思えます。
 女子の「なでしこジャパン」に男子も続いたことで、ロンドンのサッカーは非常に楽しみになりましたね。振り返れば、広州のアジア大会(2010年11月)、深圳のユニバーシアード(2011年8月)でもこのカテゴリーの選手たちは優勝しています。あまり目立ちませんが、非常に結果を出している世代なのです。
 サッカーは11のすべてのポジションが大事という競技ですが、中でもそのチームの強さを測る方法としてセンターラインの選手に注目するのもいいでしょう。そういう目線で見てもロンドンに乗り込むチームは非常にいい「芯」を持っていると思います。きっとオリンピック本番でもいい戦いをしてくれるでしょう。

 関塚監督も立派な仕事をしました。戦ううちに力の差が徐々に表面に表れて、終わってみると「簡単な予選だったね」と言われることがよくありますが、それはあくまでも「終わってみれば」の話しです。当事者にすれば最終予選のスタート時点では力の差はほとんどない、厳しい戦いの連続だったはずです。
 A代表のスタッフでもある関塚監督とは、ワールドカップとオリンピックの予選はほぼ並行して行われることが多かったので、どう選手を振り分けるかでよく意見交換したものです。A代表とオリンピックチームは、これまで、うまくコラボレートしてきたと思っています。関塚監督には「ロンドンでメダルを取るためなら、できる限りの協力をするよ」と伝えてあります。ひいき目ではなく、今回のオリンピックチームには活躍する要素は整っている気がします。いい監督がいて、いい選手がいて、いいチームになっている。問題は、7月の本番に合わせて選手のコンディションを最高潮に持っていけるかどうか。そこがうまく運べば、選手の選択、採用する戦術に幅が持てて、いい結果に近づけるのではないでしょうか。

 ロンドン・オリンピックの前に、我々にはワールドカップ最終予選という大きな試練が待ち構えています。
 同じグループに入ったのはオーストラリア、イラク、ヨルダン、オマーンです。3次予選をクリアした国ばかりですから手を抜ける試合は一つもない。日本とは異なる特徴を持った、つまり、フィジカルを前面に押し出してくるチームが多いなあと思っています。
 我々にとって、スタートの6月の3連戦が鍵になるのは間違いない。埼玉で3日にオマーン、8日にヨルダンと戦い、12日にオーストラリアとアウエーで戦います。
 オマーンはフィジカルが強く、FIFAランクは一番下(92位)といっても3次予選で唯一、オーストラリアに土をつけたチームです。それだけでもまったく侮れない相手だと分かります。
 ヨルダンは、昨年1月のアジアカップ初戦で戦い、終了間際の吉田麻也の同点ゴールで際どく引き分けた相手です。あの大会で日本は優勝することができましたが、グループリーグの勝ち点7は日本とヨルダンは同じだったことを忘れてはいけません。このチームはフィジカルだけでなくメンタルもしぶといものを持ち合わせています。
 オーストラリアはFIFAランク20位と、日本(33位)の前を走っている。日本と同じくワールドカップ出場経験があり、もちろん、アジアカップ決勝の激闘の記憶は今も鮮明です。やはり最大のライバルでしょう。
 3連戦が終わると9月11日にはホームのイラク戦が控えている。彼らは古豪といってよく、何より、ジーコ監督が日本サッカーの特長を知り尽くしている強みがあります。


 技術面で我々を恐れさせるチームはどこもありません。鍵はコンディションとアウエーでの戦い方でしょう。日本以外の国は欧州のカレンダーと同じく5月には国内リーグが終了します。そこから最終予選に向けた準備に直ちに入れるわけです。キャンプを張りながら最初は長いリーグの戦いのリカバリーに努め、それからフレンドリーマッチを幾つか組みながら6月に照準を合わせて選手、チームのコンディションを盛り上げていく。ワールドカップ本番に臨むときと同じような仕上げ方ができる。
 日本はそうはいきません。欧州組は5月中にリーグは終わりますが、終わる日付にばらつきがあり、カップ戦のファイナルに出たりすると、さらにクラブの拘束は長くなる。シーズンが終われば休暇も必要ですし、そこからどう調子を戻していくか、戻すにしても時間は限られている、という状況です。国内組はコンディションに問題はなさそうですが、欧州組と国内組を合体させて擦り合わせる時間もそれほどありません。
 日本は来年6月18日の最終節はお休みで、6月11日までに全日程を消化しなければならない。6月15日にブラジルで開幕するコンフェデレーションズカップに参加するための措置ですが、ほかの国は日本の勝ち点、日本の置かれた状況を頭に置きながら試合ができるのですから不公平感は否めません。そもそも、ワールドカップ予選とコンフェデレーションズカップを主管するFIFAが両方の日付をだぶらせていること自体、理解の外でしょう。

 それはともかく、最終予選は1年に及ぶロングランですから、その名前どおり、最後の最後までどこに決まるか分からない戦いが続くでしょう。我々にできることは6月のスタートに照準を合わせ、最高のコンディションで、集中力を極限まで高めて試合に臨むことです。
 安易な計算など立ちません。でも、それがワールドカップ予選のエッセンスではないでしょうか。この先に非常に魅力的な楽しい戦いが待っている。
 そう思うと、私は、待ち遠しくて仕方がないのです。

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