ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.212012.12.19 UP DATE「コンフェデレーションズカップ」

12月1日にブラジルのサンパウロで行われた「FIFAコンフェデレーションズカップ ブラジル2013」のドローに、アジア・チャンピオンの監督として参加してきました。ご存じのように、組み合わせ抽選の結果は日本にとって、この上ないものでした。グループAに入った日本は6月15日の開幕戦でホスト国のブラジルとぶつかり、19日の第2戦は今年のユーロで2位になったイタリアと対戦、22日のグループリーグ最終戦は北中米カリブ海王者のメキシコと戦うことになりました。どの国もFIFAランキングは日本より上位です。ワールドカップ開催国で本番の1年前に、プレ・ワールドカップとして開かれる大会に参加できるのですから、芝の状態や気候の違いも含めて本当に貴重な経験の場になると思います。

開幕戦を戦うブラジルとは10月にポーランドのヴロツワフで戦ったばかりです。しかし、今回は場所が首都ブラジリアですから、ヴロツワフのときとは比べものにならない熱狂に包まれた試合になるでしょう。ブラジル人のサッカーにかける情熱は世界中の誰もが認めるところです。想像を絶するパッションでチームをサポートするはずです。日本代表にとってハードな経験になりますが、望むところでもあります。監督が代わったブラジルがどんな構成で大会に臨んでくるのかも興味深いところです。

第2戦は私の祖国イタリアと対戦することになりました。実はドローの前から周りの関係者には「イタリアと同じ組に入るよ」と告げていました。実は予感めいたものはありました。イタリアとは2013年のコンフェデレーションズカップか2014年のワールドカップで当たる時が来るとずっと思っていたのです。フレンドリーマッチを組む際には事前に監督としての希望を聞かれますが、私から「イタリアとぜひ」とリクエストしたことはこれまで一度もありませんでした。イタリアとはどうせ公式戦で当たることになるのだから、無理にフレンドリーの枠を使うことはないと思っていたのです。公式戦で当たる方が高揚感はあるし闘志も高まりますからね。

コンフェデレーションズカップなら1次リーグで当たる確率はフィフティフィフティですが、32カ国が出場するワールドカップでもイタリアと当たる気がする、というのはどういうことなのか。不思議に思われるかもしれません。私も日本とイタリアがグループリーグでいきなり一緒になるとは思っていません。ワールドカップのような大会では上に勝ち進もうとしても、チームを阻む材料は次から次に出てくるものです。主力のケガなどをはじめとするアクシデントとか、当人たちにもどうすることもできないことが起きるものです。強豪国であっても1次リーグで敗退することもあり、そうは簡単にベスト16やベスト8になれる世界ではない。しかし、大会が始まるまでの準備の段階ではあらゆる障害を乗り越える強い気持ちがリーダーには絶対に必要です。つまり「ワールドカップでイタリアと当たる気がする」というのは本大会では出来る限りのことをして一つでも前に進む、という監督としての覚悟とか決意を表現したものと思ってください。

日本とイタリアの試合は、イタリア人の私が監督をしているので通常の対戦よりイタリアの方が意味を感じてくれるかもしれません。今のアズーリにはかつての私の教え子たちがいる。ブフォン、ジョビンコ、マルキージオ、キエッリーニ…。彼らは日本を率いる私に特別な感情を持つかもしれません。私は祖国との対戦が決まった今も心は平静です。「当たるだろう」という心の準備ができていたから組み合わせが決まった段階でも落ち着いていました。実際に試合が近づくにつれ、あるいは勝つためのゲームプランを練るような段階になったり、試合前の国歌吹奏とか試合が実際に始まると、また違った感情が沸き起こるのかもしれません。

イタリアのプランデッリ監督にはリスペクトの念を持っています。人間的にバランス感覚に優れていますし、率いたチームを十中八九、成功に導く手腕も高く評価しています。彼がベローナを率いてセリエAに登場してきたとき、私はACミランの監督でした。それから10年以上、セリエAを舞台にしのぎを削った仲です。大切な友人の一人です。彼のアズーリにおける改革も支持しています。今年のユーロでは、「イタリアといえば守り」とくくられてしまうチームが積極的に戦うようになりましたし、若い選手を思いきって登用するようにもなりました。試合の中で、あるいは対戦相手に応じて複数のシステムを使いこなせるようにもしている。大したものです。プランデッリが気の毒なのは、それほどの努力を示しながら、世間の評価は一朝一夕には変わらない、ということです。「イタリアといえば守り」という一度貼られたレッテルをはがすのは容易ではない。ユーロ決勝は攻めたイタリアがスペインのカウンターにやられた試合でしたが、そんなことは今では誰も覚えていないでしょう。

日本がグループリーグの最後で当たるメキシコはとても興味深い国です。今年のロンドン五輪では準決勝で日本、決勝でブラジルを破って優勝しました。これは選手の育成がうまくいっている証拠です。試合中に熱くなりやすい面はあるものの、ベースとなる技術はかなり高い。海外で活躍する若手も増えています。これは国内リーグの盛り上がりと大いに関係があると思います。国内リーグがタフだからこそ、そこでベースとなる技術をしっかり構築できる。国内リーグである程度の成果を上げてから海外に出て行く。そういうサイクルができあがっています。メキシコの近年の充実は育成と国内リーグがしっかりしていることの大切さを示していると思います。国内リーグの発展が代表の充実を助けているという点でメキシコとドイツは実は似ていると思っています。

来年の6月、我々はほとんど世界を一周することになるでしょう。4日に日本でオーストラリアとのワールドカップアジア最終予選を戦った後、中東に飛んで11日にイラクと同予選の最終戦を戦います。それから大西洋を越えてブラジルに渡り、15日の開幕戦の臨むわけです。コンフェデレーションズカップの決勝は30日ですから、4日のオーストラリア戦の前に集める事前キャンプからの日数を合わせると最長で40日くらいの日々を選手たちは過ごすことになります。選手がこれだけの時間をともに過ごせることなど、W杯本大会以外には、後にも先にもないでしょう。とても、とても興味深い6月になることでしょう。

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