ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.232013.2.5 UP DATE「歯ブラシ」

みなさん、お元気ですか? 私は冬休みを終えてイタリアから帰ってきました。私はとても元気です。1月30日に成田空港に迎えにきてくれたスタッフ、31日のスタッフ会議で再会した原さん(技術委員長)、協会のスタッフ、記者会見に出席したメディアの人たちの元気な姿をみて、私は嬉しくなりました。今年も一丸となっていい準備をしていきたいと思います。

1月31日には2月6日のラトビア戦の代表メンバーを発表しました。23人中、海外組が15人を占めましたが、これには理由があります。イン・シーズンのヨーロッパと違ってJリーグは春の開幕に向かって準備に入ったところです。チームも選手も初動の段階であり、国際試合を戦える状態にあるJリーガーはほとんどいません。無理に呼んでプレーさせ、ケガをさせるリスクを負うのは愚かです。そういうわけで代表常連組の中村や駒野、栗原、岩政らにも今回は声をかけませんでした。その分おのずと海外組が増えたのです。「若手が少ない」と感じた人もいるかもしれません。これも理由は国内組が少ないのと同じです。柴崎、扇原、山口、鈴木ら将来が楽しみな選手はたくさんいます。彼ら以外にも成長著しい有望株はしっかりメモできています。ただ、今回はそういう選手を呼べる状況にありませんでした。昨年は2月20日から代表チームを始動させました。大阪のキャンプには柴崎、磯村、久保の3人の若手を呼びました。29日にウズベキスタンとの3次予選最終戦が控えていましたが、24日のアイスランドとの強化試合に海外組は呼べず、ロンドン五輪予選のマレーシア戦が22日にあったためにU―22代表も呼べない状況でした。20日からのキャンプは国内組からさらにU―22のメンバーも抜いてスタートするしかなく、裏返せば、昨年の始動時はそれだけ若手を集めやすい条件が整っていたのです。

ラトビア戦はイン・シーズンの海外組主体で戦うことになると思いますが、コンディションは理想に遠いかもしれません。2日、3日に所属クラブの試合があり、集合日は4日ですが、試合前日の5日に帰国する選手もいます。週末、試合に出た選手もベンチを温めた選手もいて、状態にはかなりのばらつきがあるでしょう。そういうことも含めて総合的に判断して試合で使う選手を決めなければなりません。条件はよくありませんが、ラトビア戦をいい加減な気持ちで迎えることはしません。ご存じのとおり、今年は日本サッカーにとって大切な1年になります。3月26日のヨルダンとのワールドカップ・アジア最終予選は、来年のブラジル本大会の出場権獲得を懸けた試合になります。できるだけ早く出場を決め、可能な限り早く、本大会への準備を始めたいというのが私の本音です。ラトビア戦と3月22日のカナダ戦は、そのヨルダン戦に向けた大事な準備の試合になります。無駄にできる試合ではありません。4日に集合して6日に試合ですから、選手の滞在時間はわずかなものになるでしょう。その短い時間をフル活用して、所属クラブのやり方はつかの間、忘れてもらい、代表チームの中でそれぞれに課した役割を思い出してもらいたいと思っています。これまで続けてきた、勇気を持ってバランス良く戦い、技術の高さを示して勝つサッカーにラトビア戦もチャレンジさせるつもりです。

故郷のチェゼナティコで心身ともに十分に充電できたからでしょう。いつしか、日本に帰る日を指折り数えるようになっていました。協会のスタッフや選手と再会できる日が待ち遠しくて仕方なくなりました。故郷で何をしていたか。これといって特別なことは何もしませんでした。旧友たちと会って、おいしいものを食べて、ひたすらリラックスしていました。サッカーにどっぷり浸かったのは2日間だけです。UAEのドバイで世界中から監督が集まるカンファレンスがあったのです。世界のサッカーの潮流といいますか、最新のトレンドをチェックしながら、監督たちがいろんなことをディスカッションしました。私もそこに参加し、ロシア代表監督のカペッロや元イタリア代表GKのゼンガらと旧交を温めました。レアル・マドリードのモウリーニョ、アルゼンチンのマラドーナとも話す機会がありました。その2日間以外は故郷でエネルギーを蓄えました。以前、お話ししたとおり、チェゼナティコは夏はにぎわうリゾート地ですが、冬になるとウソのように静かになります。いつもは冬になると霧が降りてきて視界がさえぎられるのですが、今年はなぜか、霧が少なかった。おかげで冬の海の景色を十分に堪能できました。避暑地の冬は人けが少なく、冬の海岸はどこか人を感傷的にしますね。夏とは違った美しさをたたえた、冬の海を眺めながら、私も静かに物思いにふけりました。そうは言っても、なかなかサッカーを頭から外すことはできず、2012年の試合のいろいろな場面が波間に浮かんでは消え、浮かんでは消え、したのですが。

そういう静かな環境の中で2013年のあれこれを思索できたのは本当に良かったと思います。サッカー以外の、家族とこんなことをしてみたい、友人とあんなこともしてみたいと、というプランをゆっくり練ることもできました。今はとても忙しくてそんな時間を持てませんが、妻と沖縄やハワイで1週間くらい、のんびりできたら、と思ったりします。やはり海が好きなんですね。日本人にとってハワイは近場のリゾート地かもしれませんが、イタリア人の妻にとっては地球の裏側みたいな感じです。いつか連れていってやりたいなと思います。

旅をすることは好きです。昨年も世界の20都市くらいを訪ねることができました。代表監督という仕事の余得でしょうか。昔は旅といえば、クルマで移動することが多かった。イタリアの場合、列車とか飛行機とか公共機関を頼ると、時間どおりに来なかったりするので、かえって計算を立てにくいのです。今は飛行機の旅がもっぱらですが、これも苦にはなりません。ちょっと困るのは、ほんの少し前までは飛行機に乗るとすぐに眠れたのに、近ごろは寝付きが悪くなったことです。試合直後だとアドレナリンがどっと出た後で興奮しているせいかもしれませんが、本当のところはよく分かりません。飛行機の中で眠れないとき、本を読むとか、映画を見る、ゲームをする、アルコールをたしなむとか、人それぞれの対処法があると思いますが、私の場合は飛行機の中で散歩を始めます。そしてキャビンをうろうろしてクルーたちをつかまえ談笑します。映画は好きなジャンルのものは見ますが、はしごして時間をつぶすほどではありません。結局、起きたままのこともあります。でも、そのおかげで、現地で時差ボケになることは少なくなりました。着いたその日は現地時間に合わせて活動し、夜になるまで寝るのを我慢する。そうすることで時差ボケを解消するわけです。

旅の必需品を一つ挙げるとすれば、歯ブラシ、でしょうか。日本はホテルに歯ブラシが常備されていることが多いようですが、ヨーロッパや南米では必ずしもそうではありません。昨年末、コンフェデレーションズカップのドローでブラジルのサンパウロに行きましたが、滞在したホテルの備品にやはり歯ブラシはありませんでした。私は旅をする時には、必ず歯ブラシを持っていくようにしています。皆さんもヨーロッパや南米を旅をするときには気をつけてください。

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