ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.302013.12.3 UP DATE「神頼みではなく」

おかげさまで11月のオランダ、ベルギーとのテストマッチは内容に結果が伴う試合ができました。FIFAランキングでいえば、10月に日本が無得点で連敗したセルビアやベラルーシより、オランダやベルギーの方がはるかに格上でした。にもかかわらず、オランダとは2−2で引き分け、ベルギーには3−2で勝つことができました。10月のうちの試合ぶりからして、たった1カ月の間でこうもチームが様変わりするものかと驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。

10月との違いを聞かれたら、まず心身の状態の違いを挙げなければならないでしょう。選手は決してロボットではありません。いつも、いつも、持てる力のすべてを発揮できるわけではないのです。過酷なシーズンの最中であれば代表に招集されるタイミングによって、その時々でコンディションにばらつきがあるのはやむを得ない面があります。10月の試合はそういう状態の選手が多かったのです。11月の連戦は選手たちの心身の状態が大きく違いました。うちのチームはインテンシティーを多く出すことを目指すチームです。それにはフィジカルコンディションが伴っていないと難しい。そういう意味で今回はまず選手たちの体調が良かった。心理面には私からもアプローチしました。しっかりやることをやらないと本当の自分たちの課題は見つからないよ、と。選手たちの間で6月のコンフェデレーションズカップのブラジル戦のような失敗は絶対にしないように集中して試合に臨むのだ、という意思統一がなされていました。うちのチームは試合の入り方でつまずいてそれが尾を引くケースがあるのですが、今回の2試合に関してはトータルで見て、うまく着地できたように思います。

10月、11月の各2連戦は異なるタイプを相手にしてどんな課題が浮き彫りになるか、まさにテストマッチにするつもりでしたが、10月はその測定をうまくできませんでした。11月は自分たちが目指すべきサッカー、コンセプトをはっきり出すことで修正ポイントも冷静に測れたように思います。今回見せたモデルを来年のワールドカップ本番でもぶつけるつもりですから、このモデルを継続してブラッシュアップしていいかなければなりません。今回の結果に一喜一憂することなく、具体的にどこは通用して、どこは通用しなかったかを検証したいとも思っています。

オランダ戦は先発メンバーを入れ替えました。GKに西川、トップに大迫やボランチに山口を置きました。先発を変えた理由は内容を求めつつ選手の力を測ることでした。チームとして目指すべきサッカーは一つですが、それが選手を入れ替えてもできるかどうかチェックしたかったのです。これは11月の招集メンバーを発表した際にも言いましたが、来年の本大会に連れて行くメンバーというのはまだ白紙の状態です。来年のJリーグの新シーズンが始まった後、あるいは欧州の過酷なシーズンが終わった後、選手のフィジカル、メンタルのコンディションがどういう状態にあるかは今の段階でまったく見通せないのですから。先ほども述べたように、うちのチームが目指すべきサッカーにインテンシティーは最も大事な柱。そのインテンシティーを成立させるためにフィジカルコンディションは欠かせない土台になります。リスクヘッジの意味でもレギュラーを多くしておくことは絶対に必要ですから、うちのチームのコンセプトを実践できるのは誰かという見極めに今回は当てようという気持ちでいました。

オランダ、ベルギー戦とも信じられないような形で相手に先制点を与えてしまいました。どうも今年は国の内外を問わず、こういう1点のビハインドを背負う展開が多かったように思います。心理面の問題なのか…。私は選手たちに「絶対に失点するな」という指導はしていません。それでは選手の気持ちが守りに入ることになり、うちの持ち味であるアグレッシブな姿勢にブレーキがかかると思うからです。ただ、同じ失点でも、うちの得点の多くがそうであるように、相手の弱点を見事に突いたな、こちらの弱点を見事に突かれたな、という失点であるべきだと思っています。やられたこちらも思わずシャッポを脱ぐような。例えば、ベルギー戦の柿谷の同点ゴールを思い出してください。あれはベルギーのDF陣がクロスに対して選手同士の距離が開きがちになるという事前のスカウティングを生かしたゴールでした。その情報を元に190センチを超す長身のバンビュイテンの背後を柿谷がうまく突いてくれました。3点目もワンツーで裏のスペースを突かれると弱いことを長谷部と柿谷と岡崎がしっかり突いてくれました。こういう失点ならまだしも、今年の日本の先制のされ方は相手に初めて日本の陣内に入られて、初めて打たれたシュートが入るような、あっけないゴールが多かった。これでは自分を自分で苦しめるだけです。まあ、今年はそういう年だった、年が改まればこういう失点はしないだろうと、個人的には思っているのですが。

オランダ、ベルギー戦ともボランチの遠藤は後半からの出場となりました。オランダ戦は長谷部と、ベルギー戦は山口と代わってピッチに入りました。こういう使い方をしたのは、山口がどこまでやれるかというテストと同時にオランダ戦からベルギー戦まで中2日しかなく、長谷部と遠藤が疲れた状態でベルギー戦に臨むようなことにしたくなかったことが大きな理由です。オランダ戦で長谷部と遠藤を45分ずつ使うことは試合前から決めていました。CFを大迫と柿谷で使い回したことも理由は同じです。大迫をオランダ、柿谷をベルギー相手に先発させたことは特性を考慮した結果です。オランダもベルギーもDF陣は裏を突かれると弱いところがありますが、ベルギーの方がその傾向は顕著でした。そこをスピードでもって突くのは柿谷の方が向いていると思いました。オランダはGKも交えながら後ろからビルドアップして中盤の数的優位を保ちながらストーリーを作るのに長けたチームです。そういう相手にはDFラインにプレッシャーをかけられるFWがいい。大迫にはそういう守備の貢献力があり、持久性もある。フィジカルも強い。それで大迫の方がオランダには適性はあると判断したのです。ベルギー戦ではGKと4人のDF陣のうち、吉田を除く4人を入れ替えました。後ろのパートというのは非常にデリケートな共同作業を強いられるポジションなので決断が求められるところでした、今回はただのフレンドリーではなくテストマッチなのだ、という原則に立ち返り、思い切って入れ替えることにしました。そういう意味で今回起用された選手たちは全員良いレスポンスをしてくれたと思います。力量を測りつつ、レギュラーを一人でも多く増やしたいと思っていた私の期待に全員がしっかり応えてくれました。

さあ、12月はいよいよ6日にドローがあります。11月の遠征でいい内容の試合ができたことで気分よくブラジルの抽選会場に行けると思われているかもしれませんが、私も監督業を始めて30年という人間です。残念ながらそういうことに一喜一憂する歳ではなくなりました。サッカーのゲームは毎回ストーリーが変わる、一つとして同じ試合などないもの。今回描いたストーリーを次も描けるとは限りません。ただ、今回のように内容に結果が伴うと、選手に自信がつくのは確かでしょう。私がこの3年間、「こういうプレーをすれば結果は自ずとついてくるよ」と言い続けてきたことへの信頼感も増します。信頼感はトライする気持ち、プレーの精度も増しますから歓迎すべきことではあります。ドローでどんな相手とグルーピングされるか。コンフェデレーションズカップのときはイタリアと一緒になる気がしましたが、今回は予感めいたものはまったくありません。運命に委ねるしかないと思っています。結局、本大会で当たるチームに弱いところなどありません。カギはどんな相手になるか、ではなく、どんな状態でわれわれが臨めるかにあります。くじ運に頼る、試合の日の相手の不調を祈る、という人任せではなく、いかに本大会にベストのコンディションでわれわれが臨めるか。そちらに頭を悩ませるのが監督の仕事だと思っています。

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