ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.312013.12.19 UP DATE「ドロー」

12月6日、ブラジルのサルバドール近郊コスタドサウイペで行われたドローの結果、日本代表は来年のワールドカップ・ブラジル大会のグループステージをコートジボワール、ギリシャ、コロンビアと戦うことになりました。ドローを終え、日本に帰ると周囲の反応に驚かされました。日本が入ったグループCの顔ぶれを見て、「良かったですね」と喜んでいる人が多いのです。道行く人々の私に対する暖かい眼差しにも、そんな祝福のメッセージを感じる今日この頃です。

はたしてそうでしょうか。私には世間に漂う楽観論が現実を反映しているものと思えません。ドローの会場でも、帰国した今も、私が抱いている感想はまったく変わりません。「厳しいグループに入ったな」です。たとえば、14日の初戦、レシフェで対戦するコートジボワール。このチームは間違いなく今大会のアフリカ・ナンバーワンだと私は思っています。第2ラウンドから登場したアフリカ大陸予選はモロッコ、タンザニア、ガンビアと戦って4勝2分けでクリア。セネガルとのホーム・アンド・アウエーの最終ラウンドも1勝1分けで勝ちきり、無敗で本大会出場を決めました。やや出来不出来の波が激しいところは確かにありますが、それは「当たり」の時は手がつけられない強さを発揮することを意味します。フィジカルの強さは全員に共通し、ドログバ、ヤヤトゥレを軸とする攻撃陣のクオリティーは特に高い。アフリカ代表だけあって暑い場所での試合に慣れもある。フィジカルの強さと暑さへの耐性。これは来年、ブラジルで戦う上での大切な二つの要素をコートジボワールは有していることを意味します。

第2戦(6月19日)をナタルで戦うギリシャも難敵です。派手さはありませんが、団結力に優れたチームです。欧州予選はG組に属しボスニア・ヘルツェゴビナと同じ勝ち点25(8勝1分け1敗)で並びましたが、得失点差で劣って2位となりプレーオフに回りました。プレーオフではルーマニアに1勝1分け。プレーオフも含めて予選を12試合戦って9勝2分け1敗という成績も素晴らしいですが、そのうち相手を無得点に抑えた試合が8試合もあることに目を奪われます。総得点16、総失点6という数字が示すように堅守を土台に数少ないチャンスをものにすることに長けたチームです。ワールドカップ出場を決めたルーマニアとのプレーオフはホーム、アウエーともテレビで見ましたが、まとまりのある戦い方に好印象を持ちました。ギリシャというと2004年ユーロで次々に番狂わせを起こし、最後は決勝でホスト国のポルトガルを下した記憶が今も鮮やかですが、昨年のユーロもロシアや地元ポーランドを抑えてグループステージを2位通過しました(1位はチェコ)。準々決勝でドイツに2−4で破れましたが、日本にとって決して戦いやすい相手ではありません。

グループステージ最終戦(24日・クイアバ)を戦うコロンビアの強さはFIFAランキング4位という順位を見れば一目瞭然でしょう。この地位には偶然ではたどり着けません。コロンビアの特長は戦術的な幅の広さにあります。自ら能動的に仕掛けることもできれば、相手が出てくるのを誘ってカウンターで切り返すこともできる。攻撃陣は世界のビッグクラブで活躍する選手をそろえています。その象徴が最前線にいるファルカオでしょう。抜け目なく裏を突く動きはいかにもストライカーであり、ボックス内でシュートに持ち込む動き、シュートの精度、つまり決定力は世界ナンバーワンといっても言い過ぎではないような気がします。ファルカオのほかにも、クアドラド、ムリエルのようにセリエAで活躍する選手がいます。彼らがボールを持ち上がるときに感じるのは技術に加えて馬力もあるな、ということです。この馬力には日本も手を焼くかもしれません。力を急速につけてきたコロンビアを見ていると、その姿は何となく数年前のスペインに重なって見えます。力はありながら国際舞台で大きな戦果を挙げられなかったスペインですが、2008年のユーロを制すると一気に「壁」を乗り越えたようになり、2010年ワールドカップ、2012年ユーロとビッグイベントを3連覇するチームになりました。コロンビアもそういう踊り場にさしかかっているような気がするのです。コロンビアはアンダーエージの舞台でも結果を出しつつあります。今年、アルゼンチンで開催されたU20南米選手権も制しました。育成がうまくいっているところもスペインと似ています。来年の本大会ではアンダーエージの秘密兵器が出てくるかもしれません。

ドローの後の反応について良かったこともあります。日本代表の選手たちが私と認識を一つにしていることでした。選手たちの誰もが「厳しい」「難しい」と口々に語っている。正しいな、と思いました。ワールドカップについては、いくつか認識を改めるべきだな、と思うことがあります。まず、ワールドカップのグループステージに簡単なグループなど一つもない、ということ。「死のグループ」以外な楽なのかというと、そんなことはないのです。ワールドカップに集うのは各大陸予選を勝ち抜いたチームばかりです。特に今回初出場はボスニア・ヘルツェゴビナだけ。32チーム中、連続出場を果たしたチームは24もあります。これはそれぞれの大陸の実力者が順当に力を見せつけて再選を果たしたことを意味します。おまけに近年は各大陸間の格差自体が縮まる傾向にあります。旧来のイメージなら優勝を狙うようなサッカー大国は60くらいのレベルでグループステージは入り、決勝トーナメントに突入したら回転数をあげてピークに近づける、というような言われ方をされました。しかし、前回の南アフリカ大会で世界王者のイタリアがニュージーランドに引き分けてグループステージで敗退したように、入りを甘くすると後々に禍根を残すことになるだけ。グループステージは抑えて、徐々に上げていくという全体のプログラミング自体、書き換えを要求される時代になっているのです。イタリアは今回もそうです。イングランド、ウルグアイとD組で同居し「死のグループ」と騒がれています。初戦のイングランド戦はいきなり90くらいの入りをしないと勝てない相手です。が、そこを終えても気など抜けません。今は誰も話題にしない、完全に過小評価されているコスタリカでさえ何かを起こす可能性は十分にあるのですから。

話を日本に戻しましょう。ドローでは対戦相手と同じくらい試合会場が各監督の関心の的でした。結果、日本はレシフェ、ナタル、クイアバと高温多湿のところで試合をすることになりました。率直に言って、いいサッカーをするのには厳しい気候のところばかりです。ただ、恐れてはいません。レシフェでは今年のコンフェデレーションズカップでイタリアと戦い、3−4で敗れはしましたが、大会のベストゲームという評価を受ける試合ができました。暑熱対策はしっかりやって、コンディションさえ整えて臨めば、選手は十分にやれる感触を持ってくれているはずです。コートジボワール、ギリシャ、コロンビアと戦う順番については有利、不利、特別な感想はありません。試合の順番とか相手のことより、本大会ではいかに自分たちの持ち味を出し切るか、そこにフォーカスしたいと思っています。監督によっては相手を徹底的に分析して相手の長所を消すことを最優先にする監督もいますが、私はそういうタイプではありません。相手に合わせることより自分たちがしたいことをどうすればできるかに知恵を絞るタイプです。試合の順番より、移動を含めたロジスティックの方がよほど気になりますね。グループステージの間は試合が終わる度に後は必ずベースキャンプに戻らなければならないルールがあると聞いています。また、試合前日に設定される公式記者会見の時間も考慮しなければなりません。キャンプ地から遠方に試合会場があると、場合によっては試合の前日ではなく前々日に移動しなければならなくなるかもしれません。 これらは、ベースキャンプでゆっくりできる滞在日数の削減につながるわけですから、選手にすれば、フライト、フライトの繰り返しみたいに感じるかもしれません。そうやって積み重なるストレスをどう取り除くか。そういうことも含めて今はメディカルスタッフも交えて連日のようにミーティングがなされています。

日本はグループステージを勝ち抜くと決勝トーナメント1回戦でD組の1位か2位と対戦します。イタリア、イングランド、ウルグアイと過去に優勝経験のある国が集まったグループです。「そこであなたの祖国イタリアと対戦することになったら」とよく聞かれますが、正直なところ今の段階で決勝トーナメントのことは頭にありません。グループリーグのことだけ集中的に考えています。あったとしても頭の片隅にある程度です。それはきっと私だけでなく、ほかの国の監督もそうだと思います。優勝候補に挙げられるブラジルにだって白星が計算できるゲームは一つもない。遠くを見すぎると足下をすくわれる。それが今のワールドカップなのですから。

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