ザッケローニ SAMURAI BLUE監督手記 イル ミオ ジャッポーネ“私の日本”

vol.322014.1.1 UP DATE「2014年年頭に思う」

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

2014年は私にとっても、日本代表チームにとっても、そしていつも温かい声援を送ってくださっているファン、サポーターの皆さんにとっても大事な年になります。いうまでもなく、6月にブラジルでワールドカップがあるからです。2010年10月のアルゼンチン戦で初采配をふるって以来、着実に積み上げてきたものを披露する集大成の場にワールドカップはなることでしょう。日本代表にかかわるすべての人にとって素晴らしい1年になることを祈ってやみません。

さて、大きなプロジェクトを成功に導くには一人の力では無理です。頼もしい仲間がいてこそ目標は実現に近づきます。皆さんの声援も後押しする力の一つですが、私の場合、最も身近な仲間といえば、チームを支えるスタッフということになるでしょう。幸運なことに、1995年にウディネーゼで指揮を執った後、私はACミラン、ラツィオ、インテル・ミラノ、ユベントスと、イタリアでもメジャーなクラブで監督を務めてきました。おかげでフロントも含め、振り返ると常にプロのスタッフ集団が私を後ろから支えてくれました。そういうイタリアの環境に日本が劣っているかというとそんなことはありません。「日本人は本当によく働くな」というのが私の周りにいるスタッフを見ての正直な感想です。特に「本当に助かった」と思うのが監督に就任したてのころです。日本に来て、右も左も分からない時期に日本の選手の情報、アジアのチームの情報をたっぷり私に仕込んでくれました。最初はアジアのチームとの対戦が多かったから、これには本当に助かりました。日本の文化を尊重しながら自分のサッカー観をうまく移植したいと思っていた私は協会の優れた支援体制に驚き、すぐに共同して働ける仲間だなという確信を持ちました。就任から間もない2011年1月のアジアカップを制覇できたのは明らかに日本人スタッフの貢献のたまものでした。日本協会の支援体制には感謝の気持ちしかありません。

そんな優秀なスタッフですが、決して前に出てこようとはしません。そこはイタリア人スタッフも日本人スタッフも同じです。自分たちは監督をサポートするためにいるのだから、と黒子に徹してくれています。プロ意識の表れでしょう。ただ、3年も日本で仕事をし、テレビに映り込む機会が増えれば、だんだんと顔も知られるようになります。移動中の空港などでイタリア人スタッフが日本のサポーターたちに記念撮影をお願いされる機会も増えました。普段、脚光を浴びることはないイタリア人スタッフですが、新年のお祝いムードに便乗して少しばかり彼らの人となりを私自身の手で紹介してみようかと思います。

最初はアシスタントコーチのステファノ・アグレスティから。年齢は私より三つ下の57歳。私のスタッフは全員黒子に徹していると書きましたが、彼に対して審判はそうは思っていないかもしれません。試合中に日本に不利な判定が出たとき、ベンチ前の私よりも前に出て怒っている人間がいたら、それはだいたいアグレスティですから。熱血漢ですが、自分の仕事はきちんとやり抜く男です。特に素晴らしいのはゲームの分析能力。彼とは妻と同じくらいの時間を過ごしているといっても大げさではありません。1985年にリッチョーネFCという小さなクラブの監督になったとき、彼は同じチームのユース監督でした。当時の私にはアシスタントコーチもフィジカルコーチもGKコーチもいませんから何でも一人でやっていました。でも、それだと一つだけ困ることがありました。自分のチームにかかりっきりになっているので、翌週の対戦相手の試合を見に行ってスカウティングができないのです。それでユースの監督だった彼にその仕事を引き受けてもらいました。私に対するささやかな勝利給を2人で分け合うことを条件に。腹を空かせた兄弟が1個のパンを分け合うように。そうやって長い付き合いは始まったのです。彼もセリエC2で監督を1年くらいやった経験はあるのですが、いつからかアシスタントコーチの方が自分の性に合っていると思ったのでしょう。私のアシスタントになりたいというメッセージを送ってくるようになりました。一度、離ればなれになったのですが、90年にベネチアの監督になったときにコンビが復活。95年にウディネーゼの監督になってからはずっと行動をともにしています。

GKコーチのマウリツィオ・グイードとは1994年にコゼンツァの監督になってからの付き合いです。年齢はアグレスティよりさらに一つ下の56歳。彼は明るくオープンな性格の持ち主で、それが選手との関係にもよく表れています。選手との信頼関係の構築がとてもうまいのです。練習は常に明るくポジティブな雰囲気の中で行われ、見ていると、GKは常にこれが初めてのトレーニングであるかのようにフレッシュな気持ちで取り組んでいるのが分かります。イタリア国内ではナンバーワンのGKコーチという評価を受けており、実際、ユベントスのブフォン以外のほとんどの有名GKは彼の指導を受けたことがあるといっても過言ではありません。

フィジカルコーチのエウジェニオ・アルバレッラとの付き合いは前の2人に比べれば短いですね。年齢も48歳と一番若い。2006年にトリノの監督になってからでユベントス、日本代表と一緒に仕事をするのは3チーム目です。それまではずっと別のフィジカルコーチと仕事をしてきたのですが、私がトリノで仕事をすることになったとき、ほかのチームで働いていて呼べなかったのです。それで彼を採用しました。仕事に関して「まっすぐ」という感じで「日本人のよう」といえるくらい仕事に打ち込む性格です。

私の口からいうと自慢話に聞こえるかもしれませんが、スタッフのチームワークは抜群です。時間とともにイタリア人と日本人スタッフの意思の疎通も取れるようになり、仕事の流れもどんどん良くなりました。役割分担が明確になったからでしょう。監督の私にも「これについての情報は誰が持っている」「この件については誰と相談すべきか」ということがはっきりと見えるようになりました。今では日本人スタッフ、イタリア人スタッフと区別する意識もなくなりました。シンプルに「私のスタッフ」という意識があるだけです。今回は紹介することができませんでしたが、豊富な経験と知識を持ち、常にプロフェッショナルな仕事でチームを支えている多くの日本人スタッフについても、いずれ紹介する機会を持ちたいと思います。

日本では年頭に今年一年の抱負を述べる習慣があるそうですね。これまでも繰り返し述べてきましたが、私は順位やタイトルなど何かを公言して約束するタイプの監督ではありません。しかし、志を高く持ち、その志を現実に変えること、行動に移すことについては躊躇しない人間です。志を同じくする者に対する要求もおのずと厳しくなります。そんな私のスタイルに選手もスタッフもすっかりなじんでくれたと思っています。公約こそ掲げませんが、私の要求に応えて選手、スタッフは一丸となって、きっと高い目標を達成してくれる。そう信じています。日本代表は皆さんの声援をとても敏感にキャッチするチームです。皆さんの声援を感じながら戦うときはパフォーマンスがぐんと良くなります。これまでと同様、いや、これまで以上の温かい声援を今年もチームに送り続けてくれることを願っています。それがチームをより高みへと押し上げることでしょう。

ともに、がんばりましょう。

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