楢崎正剛はワールドカップ代表メンバーとして過去3大会を経験しているが、いつも本人が望むような形だったわけではない。1998年大会はベンチで過ごし、日本が決勝トーナメントへ進出した2002年大会では全試合に出場したが、06年大会は再びベンチで見守った。大会によって出場出来たり出来なかったりという状況にあったにも関わらず、名古屋グランパスGKは14年という間、ほとんどいつも代表チームに招集され、求められれば常に堅実なパフォーマンスを提供してきた。何が33歳の彼を駆り立てるのか?今回の大会への思いは?Jリーグで昨シーズン100試合完封を達成した楢崎が語った。
Q:最初に観たワールドカップは?覚えているのはどの大会ですか?
1986年のメキシコ大会はマラドーナのプレーばっかりしか覚えていないんですけど、その次の90年イタリア大会は、夜中まで起きて生で観たりビデオに撮ったりして欠かさず観ていました。
Q:特に印象に残っている選手や場面は?
どうしてもGKに目が行くので、イタリアGKがずっと無失点を続けて勝ち上がったことや、アルゼンチンの第1GKがケガして、第2GKが出て頑張ってPK戦に勝ったりというのを覚えています。その頃は僕はまだ中学生で、特に参考にしようというのではなくて、GKがどういうことをしているのかな、という感じでしたね。でも、「すごいなあ」と思って観ていました。
Q:サッカーを始めたきっかけはなんだったのでしょう?
小学校4年のときに、三和というスポーツ少年団に入ったのが最初です。その前にも、友達とかサッカーをする者が周りに結構多くいたので、よく遊びでサッカーをしていましたね。野球などもやっていましたけど、僕にはサッカーの方が面白かった。身体は大きかったけど、フィールドもそこそここなせていたので、両方やっていました。で、PKの時だけGKになったりしていました。おいしいところ獲りでいろいろ学んでいました。
Q:GKに絞ったのは自分で決めて?それとも当時のコーチに言われて?
半分半分ですかね。自分で見切りをつけたというのもあるし、コーチからも「GKでやってくれ」と言われました。
Q:憧れや好きな選手はいましたか?
特にないですね。
Q:日本代表選手になりたい、ワールドカップでプレーできたら、と思うようになったのはいつですか?
どちらかというと、僕はあまり夢見るタイプでもないし(苦笑)、現実的な考え方をしているから、プロになって、代表に呼ばれてからという感じです。でも、代表に初めて呼ばれた頃は、テレビで観ていた憧れの選手が集まっていて、そういう場所に慣れていなかったから、ワールドカップでプレーすることなどはまだ考えていなかったと思う。97年にグループの一員としてワールドカップ予選を戦って、試合に出たいという思いが強くなったし、ワールドカップを目標にできる、手の届くものだと感じるようになりました。
Q:1998年に代表デビューをしてから、ワールドカップへは3度行っていますが、02年大会は全試合に出場したものの、98年と06年は出場機会がありませんでした。この3大会をどう見ていますか?やはりそれぞれ違う印象ですか?
同じ控えでも98年と06年全然違うのは確かですね。98年の時はまだ経験もなくて試合にもそんなに出ていなかった。でもなんでも前向きに吸収しようとしていた。出られなかったことも、「次は自分が出るぞ」というモチベーションになったので、それは02年大会にもつながったと思うんです。
でも、自分がピッチに立つことで得られるものは大きい。両方味わっている立場から、それだけは言えます。出られない時期があっても、自分が劣っているとは思わなかった。監督のチョイスなのでそれは尊重して、自分は自分がやれることをやると思っていました。
Q:出場の機会が一大会ずつ交互に来ているとすると、今度は出番でしょうか?
順番で回って来るわけではないですから(笑)。でも今度の大会にかける意気込みはありますね。06年大会のあと、ケガで(ポジションを)譲って出られなくなったりして、少ないチャンスをなかなか活かしきれない時もあったから、今回は逃がしたくないし、しっかりプレーしたいと思います。
Q:GKは精神面でのコントロールがフィールド選手以上に求められる、難しいポジションだと思うのですが、精神的にとても強いように感じます。精神的強さやコントロールはどうやって身に付けたのですか?
確かに難しいですね。若い時はGKコーチの話などで救われていました。でも今では、困難なことがあっても対処法ぐらいわかると思われているようで、結構任された感じです。もう若造じゃないですし、自分で解決する性格ですし。
Q:小さい時からそういう感じだったのですか?
どうですかね。でも「まあ、なんとかなるやろ」みたいなのはあります。くよくよしても仕方ないですし、何か悪いことがあったとしても、それは先につながるものだといつも思っています。ポジィティブ思考?そうですね。そうじゃないと何事も道が開けてこないと思うんです。
Q:岡田監督の代表チームは2度目ですが、1回目との違いは何か感じていますか?
当時、岡田さんがどんな指示を出していたのか、あまり思い出せないんですけど、前回はコーチという立場で一緒に代表チームで仕事をして、それから監督になった。あれから10年ぐらい経って、監督としてのスタイルをしっかりものにしている。Jリーグの監督をやってチャンピオンになったりして経験を積まれて、監督らしい監督になっていると思います。日本人であれくらいピシッとしている人も少ないんじゃないかと思います。
Q:代表チームは楢崎選手にとってどんな存在でしょう?
いろいろな監督の下でプレーしてきて、監督によって色は違うんですけど、代表チームの価値や責任感は変わらないと思います。サッカー選手はここでやらなくてはいけないだろうと思いますし、トップレベルの選手が集まる場所なので、それだけでも大きな価値だと思います。この集団の一員でいたい、いつづけたいというのが自分の原動力になっているし、常にある目標です。
注目されるというのは、個人的には苦手なんですけど、でも、サッカー選手は注目されてナンボというところはあると思うので、代表での活躍が一番のアピールだと思う。今はみんな視野が広がって欧州のビッグクラブでプレーすることも大きなモチベーションにだと思います。僕は、代表での活躍というのもモチベーションになっています。
Q:カメルーンやオランダとは以前対戦していますが、それはワールドカップで対戦する上でプラスに働きますか?
オランダとは去年の試合のイメージと近いかもしれないですけど、カメルーンとは何年か前の話で、それも日本での対戦でしたから、そういうのは違うんじゃないかと思います。
Q:本番までの残り時間はどう過ごしますか?
無駄にしたくないですね。コンディションなどに注意しながら練習して全力を尽くしたい。それしかできないですが、それで十分かと思います。自分の力を出し切って終わりたい。「ああすればよかった」など、あとで思いたくないな、と思います。
(取材・文:スポーツジャーナリスト 木ノ原句望)