ドイツがワールドカップ・南アフリカ大会の準々決勝でアルゼンチンを4-0の大差で下して3大会連続となる4強入りを決めた翌日、ある地元紙には”Germany get Klose to glory”の見出しが躍った。

 

 このKlose は、この試合で2ゴールを叩き出したFWミロスラフ・クローゼのこと。英語のclose と発音が同じことから、この2語を引っかけて「ドイツ、クローゼで栄光へ前進」という見出しになった。また別の新聞は”Don’t cry for Argentina” と、1978年代に大ヒットしたミュージカル『エビータ』で最も有名な楽曲のタイトルを拝借して、為す術もなく終わったアルゼンチンの敗戦を皮肉った。

 

 この日の活躍でクローゼは、02年大会からの通算ワールドカップ得点を14に伸ばし、70年大会得点王に輝いた、西ドイツ代表FWゲルト・ミュラーの記録に並んだ。ワールドカップ歴代記録保持者FWロナウド(ブラジル)の持つ15得点まで、あと1に迫り、32歳ドイツ代表FWへの周囲の期待も高まる一方だ。

 

 クローゼ本人は「自分のことよりもチームの勝利。ベスト4入りの目標達成がうれしい」と話したというが、ドイツは彼だけでなく、全員が点を生み出す効果的な動きをする。

 

 アルゼンチンFWメッシのような、きらびやかな選手はいないが、ピッチ上のどの選手もが、ミスなくシンプルに的確なスピードでパスをつなぐことができ、ボールを持っていない選手も含めて、スペースを的確に使える。例えば、試合開始3分のMFトマス・ミュラーの得点につながるFKを掴んだのも、バックラインから長い距離を走って大きく逆サイドへ展開して相手を欺く動きだった。

 

 ドイツには、なんの変哲もないプレーの一つひとつに質とインテリジェンスの高さがあり、それをチーム全体で行うことができる。これほど贅沢なことはない。相手を完全に崩した2点目、3点目も、そこから生まれたものだったと言える。加えて、メッシのケアは怠らない。こうなると、風邪気味で本調子でなかったというアルゼンチンのスター選手が輝くのは難しい。メッシという個人に頼ったアルゼンチンと、組織としてのドイツという図式も描けるが、チームプレーに隠れがちなドイツ選手のレベルの高さは見逃してはならないだろう。

 

 両者の対決には、昨年3月の親善試合で因縁もあり、その試合で代表デビューしたミュラーが試合後の会見に出席しているのを見たマラドーナ監督は会見を拒否。「ボールボーイと思った」という失礼な一言を残して、ドイツファンの怒りを買っていた。今回の対決で、各紙がこぞって当時エピソードを紹介したのは言うまでもない。それだけに、アルゼンチンに1958年大会のチェコスロバキア戦(6-1)以来初となる、ワールドカップでの大敗で引導を渡し、溜飲を下げたドイツファン、あるいは反アルゼンチン派もいたことは間違いない。冒頭に紹介した某新聞の見出しも、3月の一件と無縁ではないのかも、などと考えてしまった。

 

 90年大会以来の優勝を狙うドイツが次に対戦するのは、ウルグアイを後半38分のFWビジャのゴールで1-0で退けて、60年ぶりにベスト4に進出したスペイン。興味深い対決が待っている。