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 ワールドカップ・南アフリカ大会は、7月11日の決勝でスペインがオランダを延長の末1-0で下して初優勝に輝き、1ヶ月に渡った大会に幕を下ろした。

 

 スペインは延長後半116分にMFイニエスタのゴールで無得点の均衡を破り、2008年欧州選手権に続いて、世界王者のタイトルも手にした。イニエスタはこの試合の最優秀選手に選ばれた。スペインは今大会のフェアープレー賞も受賞した。

 

 

 試合はしかし、前日、ドイツとウルグアイが繰り広げた丁々発止の見ごたえのある3位決定戦とは、趣が大きく違う内容になった。

 

 どちらのチームが勝っても初優勝という舞台設定が、両チームの選手の気持ちを奮い立たせ、ヒートアップさせていたのは間違いないだろう。立ち上がりから、速いパス回しでリズムを作ろうとするスペインに気押されそうになったオランダは、ファウルでこれに対抗してきた。

 

 前半だけで出された警告が5枚。120分通じてでは、延長後半早々にオランダDFハイティンハへの2枚目の警告で出されたレッドカードを含めると合計14枚のカードが飛び交った。だが、カードの内訳はスペイン4枚に対してオランダは9枚。ファウルも、レイトタックルやボールへのプレー意思がない中でのチャージや、足首への危険なスライディングなど、どう見ても悪質なものが多かった。

 

 考えようによっては、スペインの速い攻撃と勢いをファウルでしか阻止できないと読んだのかもしれない。だが、相手に思い通りのプレーをさせないようにしたいのなら、プレッシングなど、ファウル以外の選択肢もあったはず。ワールドカップという世界王者を決める決勝の舞台だからこそ、フェアで闘争心に溢れるプレーを見たいと思ったファンは少なくなかったに違いない。

 

 試合後の会見でも、「ビューティフル・フットボールはどこへ行ったのか?」、「これがオランダのやりたいサッカーか」という質問が飛び、記者室では「こういうプレーではオランダは勝者には値しない」とする厳しい指摘もあった。

 

 オランダのファンマルヴァイク監督は、「ファウルは両チームともにあったし、我々は10人になっても最後まで戦った。相手はここ数年で素晴らしいサッカーを展開しているベストチーム。我々も勝とうとして戦ったし、たとえビューティフルなサッカーでなくても勝ちたかったし、勝てるチャンスもあったと思う。だが、ベストなチームが勝ったということ」と言った。

 

 

 延長後半の決勝点が生まれるまでに、双方ともに決定的なチャンスはあった。だが、精度不足や相手の必死のディフェンスなどで、なかなかゴールを割ることができない。

 

 8万4千人超が集まったサッカーシティの観客から最初に大きなため息を誘ったのは、オランダのMFロッベン。後半17分にスナイデルが出した相手DFの裏へのボールに反応して、ペナルティエリアへ持ち込んでシュートを放つが、スペインGKカシリャスの好セーブに逢う。ロッベンは、後半38分にも似たような状況からゴール前へ迫るが、ここはスペインDFプジョルの身体を張ったプレーに阻まれた。

 

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 スペインも後半、FWビリャ、DFプジョルらが惜しい場面を作り、その後も後半終盤に交代投入されたMFセスクが延長前半にチャンスを作った。さらに、直後には相手DFが退場になり、数的優位な状況も加わった。決勝点はそういう流れから生まれた。

 

 延長後半の最初に投入されたFWフェルナンドトレスが左サイドでボールを受けると、ゴール前へクロスボールを送る。相手DFに跳ね返されたボールは、ペナルティボックスの外に詰めていたセスクの前へ。アーセナルMFはそのまま右からボックスに入ってきたイニエスタに流すと、バルセロナMFはうまくコントロールしたボールを右足でボレー気味にとらえて、オランダゴールへ送り込んだ。

 

 「まだ優勝が信じられない」とイニエスタ。「とてもタフでラフな試合だったが、チームに貢献できたのがうれしい」と、チームメイトが祝いの歓声を上げるのを横目で見ながら、言った。

 

 「正直、PK戦になるかと思った」と話したスペインのデルボスケ監督は、「とても緊迫した試合で、相手が我々の仕事を難しくした。その健闘は称えたい。だがポゼッションも試合の主導権も我々が圧倒的に握っていた」と、話した。

 

 98年以来チームを率いているデルボスケ監督は、欧州選手権に続いての世界タイトルについて訊かれ、「08年の流れがあるからここまで来ることができた。これまでのハードワークの賜物だ。選手たちは本当によくやった」と満足そうに答えた。

 

 大会を通じて、FWフェルナンドトレスの不調に苦しみ、初戦のスイス戦を落とすなど、スペインの今大会での出足は鈍かった。だがその後、決勝トーナメントに入って不振のFWを外すと、流れるようなパスワークで攻撃的センスを爆発させ、決勝まで進んだ。かつて無敵艦隊と異名をとった古豪が、ようやく名前に負けない本領を発揮して手に入れた栄冠だった。

 

 「僕らは勝者になるにふさわしいプレーをしたと思う」。イニエスタは誇らしげだった。

 

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 大会得点王には、5得点の活躍でドイツを2大会連続の3位に導いたMFミュラーが選ばれた。スペインFWビリャ、オランダMFスナイデルも5得点で並んだが、アシスト数(3)の多さが他の2人(共に1)に勝った点が評価された。ミュラーは最優秀ヤングプレーヤー賞にも輝く2冠。

 

 また、記者投票による大会最優秀選手賞には、4位フィニッシュに貢献したFWフォルランが選ばれ、最優秀ゴールキーパー賞はスペインのカシリャスが受賞した。