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特別対談
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日本と日本代表
司会

日本に来られるまで監督の仕事はすべてイタリア国内でなさっていた。海外で暮らすのは初めてなわけですが、実際に日本に来られてみて、見ると聞くでは大違い、みたいなことはありましたか。

ザッケローニ監督

イタリアではミラノ、トリノ、ローマなどで監督業をしました。それぞれ都会ではあったのですが、それらと比べても、東京は人々が忙しく暮らしている町だな、とは思いますね。それでも、まだ日が浅くて東京を知り尽くしているとはいえませんが、日本の生活自体はとても気に入っています。ここで暮らす人たちと同じような日常を送れているなと思っています。
まあ、イタリア人はそれほど日本のことを実際にはよく知らないんです。話題にのぼるときも「聞いた話では…」という伝聞が多い。で、実際に来てみて、日本の暮らしやすさが気に入り、そのまま住み着いてしまう。そういう人も多いらしいですね。私もすぐに気に入ったのですが、日本で一番気持ちのいいところは人々に教養があるというか、私に対する接し方にしても慎み深く、好意のようなものを感じることです。常にこちらの立場を尊重して行動してくれるといいますか。

前田社長

日本のことをそんなに知らないのに、この国で監督をしようと思われた理由は何なのでしょうか?

ザッケローニ監督

イタリアでクラブでの仕事をある程度やり遂げて、この後、するとしたら外国での仕事か代表チームを率いることだと思っていたのです。そういうタイミングで来た話なのですごく魅力的だったんですね。すぐにやりたい気持ちが芽生えました。観光旅行でイタリアを訪れる日本人を見ていても、行儀が良くてフレンドリーで好印象しかなかったですから。実際に来てみると日本は街並みがきれいに保たれていますし、安全でもある。これだけ大規模な都会では治安がもっと悪くても不思議はないのに…。これまでの人生でロックをせずにクルマから離れたり、開けっ広げに財布からお金を出したりすることに慣れていなかったので、それらもサプライズに数えていいでしょう。

司会

松沢さんはドイツで暮らした経験がおありですよね。不慣れな土地で暮らしながら仕事で成果を出すのは苦労も多いと思うのですが。

松沢社長

私の場合、ドイツで留学と仕事の都合2回、年数で7年半、暮らしました。その当時はイタリアにもよく行きました。仕事の面で言うと数字、業績だけを追いかけても仕方がないと。アゴが上向きになってダメなんですよ。それで、やっぱり一つ一つの仕事をみんながしっかりやって、一日一日レベルを上げていく、その方が大事なんだという方針でやりました。私が行く前にあった拡大方針はやめて、無駄な出費は切り詰め、地道なやり方に変えた。すると、結果的に業績も良くなったんですよ。

司会

そうなんですか。ザッケローニ監督は日本に住むことを決断されましたけど、試合や大会の前後だけ日本で暮らすという方法もあったのではないですか。

ザッケローニ監督

前提として、日本に住んで日本を理解することで、チーム作りをする上での判断ミスを減らせるということがありました。そして日本の文化を学ぶことの重要性。私は日本にイタリアの文化を持ち込むつもりはないのです。日本の文化や習慣に順応しながらイタリアのアイデアを加味したいと考えているのです。日本でイタリア式をやるのではなくて、日本式にイタリアのエッセンスを加味したのです。

司会

ザッケローニ監督がこれまでの経験から感じた日本の特質とは何ですか。

ザッケローニ監督

国民性といえると思うのですが、非常に礼儀正しく、和を重んじる。グループを形成する団結力がある。これらはサッカーはチームプレーのスポーツですから、なくてはならない資質です。欧州との決定的な違いは、日本人選手の方がチーム全員で勝つことに喜びを感じることでしょうね。欧州の選手は個人記録を重視するし、そちらに達成感もある。

司会

そういう日本人選手の特質を踏まえながら、監督としてマネジメントや指示の出し方を変えたところはあるんですか。

ザッケローニ監督

私自身のサッカー観を変えたりすることはありませんね。ピッチの外での食生活なんてことを選手にうるさくいうこともありません。もともと、ピッチの外でのことについて、とやかく注意を出すタイプではありませんし。

前田社長

ザッケローニ監督になってから、日本のサッカーにつきまとってきた、やれFWが点を取れないとか、中盤の選手が前にパスを出すところがないとか、そういうフラストレーションが払拭された気がするのです。今は点も取れるし、攻めが良くなった気がするのですが。

ザッケローニ監督

残念ながら、この2試合に関しては1点も取ることができませんでした(苦笑)。それはさておいて、日本サッカーの決定力の問題には、Jリーグに外国人選手枠(登録5人、出場3人、これとは別にアジア枠1人)があって、センターフォワード(CF)というポジションをほとんどのクラブで外国人選手が占めていることと関係があると思っています。それが日本人の若手FWがなかなか出てこられない理由の一つ。それに付随して、若い選手をわざとではないと思うのですが、CFから別のポジションに早くからコンバートさせる傾向があるようにも思います。
また、Jリーグというか、日本のサッカーはパスサッカーが主体ですよね。コンビネーションを重視してパスをつなぎながらボールを運んでいくのを好む。それが個の力で打開する選手が出てきにくい理由かもしれません。逆に欧州は、ディフェンス陣にサイズが大きくてフィジカルが強い選手が多い。それに対抗してCFも大きくて体の強い選手を配置して、その選手にくさびのパスを入れてキープさせている間にディフェンスラインを押し上げるというサッカーをさせている。クロスボールでフォワードに勝負させる頻度も高いですからね。

松沢社長

昨年の南アフリカでベスト16に進んだことを契機に香川(ドルトムント)とか長友(インテル・ミラノ)とか、海外に雄飛する選手が随分増えました。これはJリーグの選手育成がうまくいっている証しでもありますよね。そうやって出て行く選手の隙間をJリーグでは次代を担う若い選手が埋めていく。そういうサイクルの中で選手層を厚くしながら、日本がさらに上に行けるチャンスも広がるのかなと思っています。いずれ代表チームにも若いストライカーが現れてくれるでしょう。

ザッケローニ監督

日本に来て驚いたのは育成システムの充実でした。上は大学生から下は小学生まで、素晴らしい育成システムがある。育成年代の指導者の考えがチームを強くすることより、選手を育てることに重きを置いているのも素晴らしい。イタリアやイングランドなどは育成年代でも育成より結果を求める方向に走っていますから。育成がしっかりしているからプロになったときに準備ができている選手が日本には多い。それとユーティリティーな選手が多いのも素晴らしい。

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