ネット放浪とゲストハウス
またか―。
こう何度も起ると、さすがにもう驚かない。ラップトップPCの右下に出る「吹き出し情報」の注意にも見慣れてきた。「限定または接続なし」やら「未接続」は当たり前で、ひどい時には、「範囲内にはネットワークが見つかりませんでした」とくる。いやいや、ネットワークはあるんだって。ただ、十分に機能していないだけで…。
インターネットがつながらない、あるいは、頻繁に切れるなどの現象は、南アフリカで滞在中、頻繁に直面してきた。
ホテルでもゲストハウスでも無線LANの場合が主流で、この場合、設置されているLANのアンテナ(というのだろうか)と自分の部屋の位置関係によって、LANシグナルが「非常に弱い、弱い、中、強い、非常に強い」と変わる。その基本的な条件とは別に、単に“キャパシティオーバー”という状況が少なくない。
特に、個人経営のゲストハウスの場合などでは、多くの人間が特定の時間帯に一度にアクセスする状況や、一人の人間が写真や原稿など、重いファイルを送信するという状況を想定していないようなのだ。
もっとも、この国のいくつかあるプロバイダーの中でも当たり外れというか、安定度の良し悪しがあるらしく、単純に、そのゲストハウスやホテルがどこと契約しているかにもよる。
先日、ケープタウンで利用したゲストハウスは、非常にレベルの高いサービスを提供する、設備も整った、実に快適な場所だったのだが、突然、滞在中に無線LANがダウンした。これには経営者も大慌てで、訊けば、契約しているプロバイダーのケーブルに異常が発生したために、ウェスタンケープ州一帯で機能が止まったのだという。復旧の見込みは不明。この国ではありがちな返答なので、これにももう驚かない。日本のようにネットカフェが乱立しているわけではないので、インターネット接続が可能なカフェを探して、町をさまようだけだ。
一方、日本代表チームがキャンプ地としていたジョージでお世話になったゲストハウスでは、期間中、日本人ジャーナリストが複数滞在したためか、夜から朝にかけて不通になる現象が続いた。そのため、最初の数日は毎朝、オーナー夫妻がゲストハウスにやってくると(別の場所に住み、夜間は管理人も不在という場合が少なくない)、ご主人がメインターミナルのスイッチを入れ直し、屋根に上ってアンテナをチェックするという作業が続いた。
ところが、試合で各地を転戦して再び同じゲストハウスに戻ると、このオーナー夫妻から「ネットはもう大丈夫なはずだよ」と告げられた。キャパシティに問題があると判断した彼らは、なんと、契約プロバイダーを変えたというのだ。「こういう問題があるとは知らなかったから、おかげでいい勉強になったよ」とまで言ってくれる。経営者としての姿勢に恐れ入った。もちろん、その後、このゲストハウスで快適な仕事環境を手に入れたことは言うまでもない。
ちなみに、接続には時間やデータ量に応じてバウチャーを購入して利用というシステムのところが主流だが、なかには無料のところもある。仕事柄、接続時間やネットで調べ物をすることが多い身としては、安定した接続で無料というのがありがたいが、まだそこまでは期待しすぎのようだ。
ヨハネスブルグからダーバンへ向かう飛行機で出会った地元のビジネスマンは、「確かに、この国のインターネットは遅いし、安定していない。全国的にそういう状況だが、これでも数年前に比べれば、ずいぶん良くなった方だ」と教えてくれた。
南アフリカのゲストハウスは、下手なホテルに泊まるよりも、よほど快適な空間を与えてくれると評判だ。たいていは、ボリュームのある英国式朝食付きで、適度にアットホームな雰囲気があり、滞在中は部屋の鍵以外に門と母屋の鍵を渡されて、出入り自由のマイペースな生活を楽しめる。紅茶・コーヒーやミニバーをはじめ、バスルームなど部屋のアメニティはもちろん、それぞれのゲストハウスで趣向を凝らしたラウンジがあり、この違いがまた楽しい。英国の統治下に置かれていた歴史的背景から、英国のB&Bやゲストハウスに通じるところがあるのだが、クオリティと料金、そして人の良さという点では、南アフリカに軍配が上がると感じた。
一般に、ジョージを含めた地方の町にでは、ホテルよりもゲストハウスの方が多いという地域が少なくない。しかも、南アフリカは、今回のワールドカップの成功を多くのビジネスチャンスにつなげたいと国として考えている。地方に市場機会を求めて訪れたビジネス客がゲストハウスを利用する機会も増えるかもしれない。ネット接続さえ安定していれば、ゲストハウスほど快適な空間はない。となれば、全国的なインターネット接続環境の整備も、経済発展促進を支えるためには忘れてはならないチェックリスト項目ではないかと思うのだが、余計なお世話だろうか。
Text by Kumi Kinohara, sports journalist