6月20日 ダーバン−ヨハネスブルク−サッカーシティ
オランダ戦から一夜明けて、ビーチではテントが立ち並び、マーケットが開いている。「今日は日曜日か」と最近曜日の感覚もなくなり、移動に明け暮れながらの毎日である。マッチフラッグをデンマーク分とオランダ分をヨハネスブルグに運ぶ。確実に重量オーバーである。搭乗手続きは終わっていたが、カウンターで超過料金の手続きをしているあいだに、荷物を入れるのが間に合わなく、次の便に変更になる。これでこのパターンは二回目。これがアフリカである。その間に共同通信に依頼されていたオランダ戦の観戦記をメールする。重さのあるものを移動させるのは重量のないメールのようにはいかない。
ヨハネスブルグに到着すると、ゲートを出たところで待ちうける人のためにスタンドの客席をあしらった待合所が設営されていて、床はピッチの模様があり、一瞬グランドにあらわれた選手気分になれる。粋な計らいである。
空港からタクシーでネルソンマンデラスクエアに向かい、そこでSONYの人と待ち合わせる。ここは南アフリカに到着した12日の初日に来たところ、すでに懐かしい風景になっている。
3Dシアターには今日も人だかりである。
その足でサッカーシティースタジアムで今夜行われる、ブラジル対コートジボアールの試合を観戦しにいく。到着したのは試合開始前4時間。ちょと早すぎたかも。
巨大宇宙船のような外観のスタジアムは、郊外に立地しており、まさに大地に舞い降りたUFOである。あの未知との遭遇のテーマ曲が聞こえてきそう。
スタンドの中に入るとまだ人はまばらである。オレンジ色の客席が昨日のオランダを思い起こさせるのはダーバンの後遺症なのだろうか。時間と供に冷静になって昨日の試合を振り返る。日本以外の試合を観戦するのは今日が初めてであるし、マッチフラッグを持ちこまないのも初である。なにか手持ちぶたさな分、誰もいないピッチに昨日の日本チームのプレーをかってにイメージさせている。映像は確実に脳裏にのこっている。手にはマッチフラッグの重みがまだしっかりと残っている。人間が実際に経験したことは、時間が経つにつれて、忘れていくことと、深く刻み込まれていくことの二つあるのだろう。ピッチにはダーバンの空気が流れていた。
SONYの人と3Dの話を少しする。どこまで現実の世界に近づくことが出来るのか、人間のもっている視覚認識の原理を最大限に引き出してこのスタジアムの空気を映像化する。スタンドには3Dカメラが何台もあり、試合の空気の動を捕えようと待ち構えている。それはまるで空間捕獲装置とでもいえる様相であった。
スタンドを一周する。少し冷えてきた、ホットチョコレートを1杯飲む。「一日にどれくらい売るの?」と聞くと、売り子の少年は巨大スタジアムを指差して「500!」と嬉しそうに答えた。
スタンドのあちこちにあるファンショップではこちらでよく見かける、ヘルメットを改造した応援メットが売っている。固いメットの表面を切り出して、ペイントしている、手作り感満載の奇妙な品である。JFAの田嶋幸三さんも買っていた。
値段は500ランド(約6000円)ちょっとお高い。どこからこの発想がきたのだろうか?ブブセラといい今までにないノリである。そういえば、マンデラスクエアでは「耳栓をタダでおくばりしてまーす」という人がいた。大きな袋いっぱいに耳栓を広場に持ち込んで、道行く人に配っている。ブブセラに対する皮肉たっぷりのアクションである。スタンドの客席を案内する表示にも客がブブセラを吹いている絵が描かれてあった。
試合開始の時間が迫りブブセラの音響も高まってくる。
試合はカカが退場するなど荒れた試合になる。結果は3-1でブラジル勝利。
試合後に幸運にも2006年のワールドカップで国際審判を務めた上川さんと話をすることが出来た。今回は試合の審判の評価をする立場でこられているということであった。「今日の試合は今まで29試合行われてきた中で一番、審判のホイッスル的にはよくない試合であった。このような流れになったのは試合開始直後にクレームを言ってきた選手に対して、甘く反応したのが大きな原因である。最初選手たちは審判の出方を探ってくるので、そこでビシッと言わないと、統率がとれなくなってくるあとは、言葉の問題で片方のチームに会話がかたよるとよくない」とのこと。
「しかし全体的には審判のレベルはあがっている。特に線審のレベルには目を見張るものがある。オフサイドの判断は素晴らしい」
これから第3クール(グループリーグ3戦目)に入ってくると、審判にとっても選手にとってもきわどい場面で熱くなるシーンが増えることであろう。
ホテルに戻ると、日本からの新聞とか雑誌がフロントロビーに届いていた。そこには14日のカメルーン戦の報道がされていた。本田のシュートが決まったあと日本選手がよろこんでいる姿の背景に写っていた。このときの空気はしっかりと私の身体にも刻み込まれている。あれから6日がたち、そして第三戦まであと4日である。これからどんなことがおきてくるのであろうか。一日があっというまに過ぎていった。
(文責:日比野克彦)
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