南アに来て10日が経った。キーボードを打つ音が変わってきた。爪が伸びてきたせいだ。選手が試合前に審判にスパイクシューズなど身体チェックされる様子を見ていると、指輪などのアクセサリーを付けていないかと同時に爪のチェックもされている。日本選手も南アに入り2週間以上経った、2,3度は爪を切っていることだろう。選手の皆さん深爪しないようにしましょう。今日は日本の国際審判西村さんが笛を吹く試合がエリスパークスタジアムである。対戦カードはスペイン対ホンジュラス。私も爪を切ってから西村主審の試合を観戦しに行く事にしよう。
ヨハネスブルグ市内にあるエリスパークは昨年のコンフェデレーションカップの決勝が行われたスタジアムである。新設されたサッカーシティースタジアムとは違って、住宅街の真ん中にあり、スタジアムまで行く道中には道路を横切りながらフラッグやブブセラを売る人や、段ボールに「PARKING」と書いて車を誘導し勝手に駐車場を案内する人などが往来し賑やかである。スタジアムの入り口につくと奇妙な像が道路脇に建っていた。手には何かでかい瓜のようなものを持っている。「ラクビーボール?」南アフリカはラクビーの人気は高く、ワールドカップの時期でもラクビーの関心度は高い。それにしても微笑ましい像だ。この味はなかなか出せるものではない。カメルーンにこの3月に行った時に見たエトーの像と似たところがある。アフリカの彫像などの造形からの流れが現代にくるとこうなるということであろう。日本でこの像を見たとしたら、「包み袋をもってのウォーキングしている人」に見えるであろう。
その像から100mほど行くとゲートがあり、そこには早速スペインサポーターたちが開場の時間を待ちわびていた。そのなかに太鼓を持ってひと際張り切っているおじさんがいる。どこかで見たことがあると思ったら、NHKで名物サポーターとして紹介していた人だ。確かバーのマスターだ。この大太鼓はスペインがワールドカップに出場するごとに新調し、お店にはその数だけの太鼓が飾ってあった。周りのメディアも目ざとくこのおじさんを見つけてカメラを回していた。ソンブレロを被ったサポーターには歴代のピンバッチがあり、さすが歴史あるスペインと思ってよく見たら、赤に白い丸の中に月と星、これはチュニジア?地中海はさんで向かいの国!いろんなところからみんなが混ざって応援しています。マッチフラッグ的な要素はいにしえから交流があった国々では当たり前のように存在していたということなのです。
ゲートが開き、スタジアム敷地内に入ると、スタジアムが2つあった。ひとつはラクビー場であった。ここはさしずめ運動公園である。敷地内にはオフィシャルスポンサーのパビリオンが建ち並んでいる。まだ準備が出来ていないところがほとんどで、TIAである。(This
is Africa)。上海万博の初日にアフリカ館に行った時もそうであった。5月1日の午前10時にはしっかり稼働しているものはほとんどなかった。これでいいのかもしれない。
なんとなく慣れてきた。試合の運営ではこうではこまるけれど・・・。西村さんもそれでは頭が痛い。そういえば試合運営でいえば、試合中のボールボーイたちのボールの出し入れのタイミングがどたばたしているなーと感じているのは私だけだろうか。
オフィシャルショップはしっかり開いていた。何度も見ているが、特に買いたいというものがないのはわかってはいるが、冷やかし半分と昨日覚えたズールー語を試しに行ってみる。「ンガボンガ」というと通じたらしく笑顔で答えてくれた。これの意味が「こんにちは」か「ありがとう」かどっちだったけ?と思いながら、まあ通じればどちらでもいい。
グッズの中で一つ気になっていたものがあった。「LUCKY PACKET」と書かれたビニールの包み袋である。いわゆるお楽しみ袋である値段は500円くらいである。私が袋を手で開けようとするがなかなか開かない。すると店員の女の子がその袋を取り上げると、キラリと眩しい白い歯をみせ、おもむろに歯で袋を破った。「わーーーンガボンガ!ンガボンガ!破られた!」そして中から出てきたのは、ワールドカップキャラクターのZAKUMIの缶バッチ+キーホルダー+腕輪が各1である。1000円相当の品だからお得だと説明してくれた。しかし私にとっては袋をきれいに破りたかった。この袋のほうがどうみてものちのちは値打ちがでそうなのに・・・。この引き裂かれた袋を見るたびに、あの白い輝く歯を思い出すのだろう。ンガボンガ。
帽子に缶バッチ、腕輪をはめてそろそろ開きだしたパビリオンを見に行く。SONYのパビリオンではアナログ3Dということになるのだろうか、遠近法で描かれたサッカーゴールの前で記念撮影をしている。HYUNDAIのコーナーでは大きなサッカーボールにサインが出来るようになっており、私もマッチフラッグとやたがらすのマークを描いて、デンマーク戦は2-0で日本の勝利と書き添えた。フェースペインティングや両チームのサポーターの写真をネット上にあげるコーナーなど、いつものおきまりのコンテンツである。サポーター達は試合開始前はすこし時間をもてあましている。こんなところでマッチフラッグワークショップができるといいのでは。デンマーク戦やってみるか。
スタジアムの入り口の壁に記念プレートが設置してある。そしてそのなかにあの先ほどの奇妙な像が持っていたのと同じ形のラクビーボール?がある。あの奇妙な像の造形的なのりからして、本当はちゃんとした形のラクビーボールをつくりたかったけど、あえて像の丸みのあるラインに揃えて、ボールも瓜のかたちにしたのかと!思いきや!スタジアムのしっかりとした記念プレートにもあの瓜なのである。ということはこの形が正式なボールの形。しばしプレートを見続けていると、そのボールが段々とボタもちに見えてきた。しばらくお米食べていないなあ。
スタジアムの中で昨日に引き続き上川さんとお会いした。「今日は西村君が出るからね」と自分のことのように張り切っていた。選手入場の際に審判がフラッグの次に出てきて、ボールをサッととってピッチへ進んでいくシーンは何度もテレビで見た。このことについて上川さんに尋ねると。「4年前にはなかったよね。かっこいいよね。あのボールは試合で使用するマルチボール(試合の日付と対戦チーム名が印刷されてある)の中でもひとつだけにKick offと書かれてあるんですよ。どこかスポンサーのところにいくんだろうな。審判の手元にはこないんだよね。そして選手紹介のあとにスタジアムの巨大モニターにも審判が動画で腕組をするシーンが流れているのも、今大会からで審判も選手同様にあつかわれているんですよ」と話してくれた。
試合結果は2-0でスペインの勝ち。得点差以上に実力差があったゲームでした。上川さんが声をかけてきてくれた「よかった、いい審判だった。問題なし!」と安堵の表情。昨日のブラジル戦が荒れたゲームだっただけに、心配だったのだろう。西村さんに勝ち点3!
1982年ぶり2回目出場のホンジュラスは北中米カリブの代表、アメリカ・メキシコが常連で、コスタリカとかジャマイカとかと競ってワールドカップに駒を進めてきた。よくぞがんばった。数少ないサポーターたちに声をかけた。なんとなく応援したくなるチームである。中南米はその昔スペインに侵略された歴史を持つ。なぜだかホンジュラスの帽子を帰りがけに買ってしまった、南アフリカ大会のネーム入りである。いつかホンジュラスに行くときにはかぶっていって、2010年南アフリカワールドカップでホンジュラス対スペインの試合を見たことを帽子を見せながら話そう。
(文責:日比野克彦)
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